COBOL技術者の憂鬱

COBOLプログラマは不在にしています

リブート/福田和代著…全ての情シス・SIer関係者は必読

リブート!

リブート!



普段は小説の感想をブログに書いたりしないんですが、ちょっとまとまった感想を書きたくなるお話だったので、さらっと書き残しておこうと思います。



その昔、日本では「踊る大捜査線」、海外では「ホミサイド」など、ちょっと毛色の変わった刑事ドラマが流行した時期がありました。
それまでの刑事ドラマでは、警察組織というと「現場で格好良く銃撃戦を繰り広げるヒーロー達が活躍している場所」というイメージで、時には泥臭く、時にはオシャレに描かれていましたが、先に挙げたドラマでは、組織内部のドロドロとした人間関係をリアルに描いたという点で、とても斬新なイメージを持って世の中に受け入れられることになりました。



「リブート」の舞台となる、銀行の情報システム内部の組織についても、世間一般的には、なんとなく涼しそうな感じで仕事をしているイメージをもたれているかもしれないのですが、この小説の作者は、決してそんなことはないんだよということを、これでもかというほどのリアルな筆致で描ききることに成功しています。
具体的には、合併することになった銀行の情報システム統合に関わるあれやこれやの揉め事を、次々と連鎖発生するシステムトラブルを縦軸に、PM同士の対立や、上司や部下との関係などを横軸にして、物語は進んでいきます。



システムトラブルについては、その発生のタイミングや原因・影響など、こういう仕事を経験したことのある方なら思わず「あるある!」とうなずかざるをえない事象がいくつも飛び出してきて、とても納得感がありました。
トラブル対応が完了して、一件落着かと思いきや、今度は予想もしていないところから再び襲いかかってくるトラブルなど、読んでいて気持ちがよくなるくらい、とても絶妙な感じがしましたね。
例えるなら、ホラー映画で、「そろそろくるなー、あれ?こなかったね、よかったー」⇒主人公が後ろを振り返った瞬間に「ギャー!」っていう、あれですね。
終始一貫してああいう感じで話が進んでいく為、私は当初、一気に読破しようと思っていたんですが、無理でした。途中で2〜3日、間を置かないと読了できませんでした、リアルすぎて。



人間関係については、立場の違う者同士の対立や、仕事に対するスタンスの違いからくる行動のすれ違いなど、ちょっと書きすぎなんじゃないかなと思うくらいのしつこさでもって描かれています。「確かにこんなイヤな奴おるよなぁー」という「あるある感」を、ここでも同じように感じさせられます。



と、ここまでベタ褒めしてきたのですが、この小説のただ一つの欠点は、こういうIT土方的な仕事に携わったことのない人たちにとっては、いまいち楽しむポイントがわかりにくい点だと思います。
要するに「あるある感」「じわじわ感」がうまく伝わらないんですね。それがないと、この小説の価値は半減してしまうので、それゆえ一般人にはオススメできない代物だと思います。それは言い換えれば、全ての情シス・SIer関係者は必読だということですね。



物語の最終局面では、救いのある方向へ展開していくので、読んでいてホッとしたのですが、現実の世界では、これ以上に悲惨なプロジェクトはてんこもりなのです。
福田和代さんには是非、そのあたりのことを踏まえた上で続編を書いていただいて、実はドMな私を悶絶させていただきたいですねw